留学には色んな形があると思います。研究留学、語学留学、ホームステイなども海外留学に入るでしょう。ここでは研究留学についてお伝えします。
私はコネが全く無い状態からアメリカ研究留学の有給ポジションを獲得しましたので、その時の経験を踏まえて、これから研究留学をしようとしている方に向けて、まとめたことを皆さんにシェアしたいと思います。
どのラボに留学するか?
世界中にはいろいろな研究をしている人がいて、世界各地にラボがあります。
研究留学をするためには、まず行く先のラボを選ばなければいけません。
そしてラボの選択が留学の成否を決めるといっても過言ではないと思います。
私が留学するラボを探していたときに考えていたことや実際に留学して感じたことを元に、留学するラボの選択基準をまとめました。
テーマで選ぶ
まず留学先で、何を勉強したいのかを決めることが大切です。
これまで日本で研究していたテーマと同じ研究分野で研究をするのか、全く関係のない分野に飛び込んでみるのか、もしくはその間か、という視点でラボを選ぶことができます。
日本と同じ研究分野の場合は、基礎知識があるので自分の研究をさらに発展させることができるでしょう。
では、全く関係のない分野を留学先で勉強するのはデメリットばかりかというと、そうではないかもしれません。
私は日本で行っていた研究とは全く縁のない分野の研究を留学先でしました。最初は日本の研究に愛着があり、違う分野の研究をすることに抵抗感がありましたが、どの分野でもそうだと思いますが、やってみると奥が深くて面白く、研究の視野が広がり多角的に考えられるようになったと思いました。今となっては、これはこれでよかったと思っています。
場所で選ぶ
地理や気候で決めるという視点があります。
暖かいところ、寒いところ、海が近い、山がある、都会、田舎など様々な選択肢があると思います。
アメリカの北部は冬は常に雪に閉ざされ、フロリダなどの南部は熱帯に近い気候です。寒いのが苦手な人、暑いのが好きな人など様々いらっしゃると思います。
暖かいところはプールで泳げますし、寒いところではスキーができます。海が近いと海釣りやサーフィンができたり、山が近いところではハイキングやキャンプなども楽しめるでしょう。
野球が好きな人は大リーグチームを持っている都市やバスケットボールチームのある都市にいくと、スポーツ観戦が楽しめます。
日本と違って、アメリカは休みをしっかり取ることができることが多いですので(全部のラボがそうではないですが)、余暇をどのように過ごすかということも考えたほうがいいでしょう。
「アメリカで行きたいところがあれば国内旅行で他の州に行けばいいんじゃない?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、アメリカはバカでかいですので、他の州に行くのは日本でのちょっとした海外旅行の感覚です。なるべく近場に自分の興味があるモノや場所があるところが良いでしょう。
また、家賃などの物価も考慮に入れたほうがよいでしょう。アメリカの不動産はバブルに近い状態で、都市はどこも家賃が高いです。ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルス、などは異常な家賃です。世界一家賃が高いと言われているサンフランシスコは家賃の中央値が月4000ドル以上です。ボストンは1ルームでもほとんどが月2000ドル以上します。その一方で、田舎はかなり安く生活することができます。月1000ドルも出せば庭付きのかなり広い家に住めるところもあります。
一般的にアメリカでは有名な大学や研究所があるところは、生活費や家賃が高い傾向があります。私の考えでは、有名な大学や研究所からスピンアウトしたベンチャー企業や、試薬会社などの関連企業が集まるため、必然的に家賃などを押し上げるのだと思っています。
わたしは研究室からNIH規定のポスドクの給与をもらっていましたが、これではまったく生活できませんでした。家賃(2ベッドルームで月2000ドル以上)と幼稚園(月1000ドル弱)の月謝で給料が吹き飛んでおり、貯金を切り崩すしかない生活を数年間余儀なくされました。想像していた以上にアメリカの物価はクレージーでしたよ。。。最近、日本からアメリカへ留学する人が減っているという話をよく聞きますが、生活費が高すぎるのがその一因だと思います。
ヨーロッパについては詳しくないですが、都会の家賃が高く、田舎は安いのは共通だと思います。
また、家族連れの方や女性の単身の方は治安も考慮したほうがよいでしょう。
アメリカの各都市の犯罪率などはこちらで検索することができます。
施設で選ぶ
ラボの母体の性質で選ぶことができます。
大学または研究所なのか?また、公立(public)なのか私立(private)なのか?ということです。
大学に所属しているラボの場合は、ラボのメンバーは教育の役割を課されることがあります。その対価としてラボの運営費の補助を大学側から一定額支給してもらえます。
大学の場合は下に学生がつくことがあります。かなり自分の英語の練習にはなりますが、その分、自分の研究の時間を取られることになります。アメリカの学生はよく勉強しており優秀な人が多いですね(笑)質問も手厳しいですし、「私には勉強する権利、教えてもらう権利がある」と強気な人が多いです。かなりグイグイ来るので、「おおぅ」という感じで、日本の感覚だととたじろいでしまうこともありました。
私立の研究所の場合は、研究に集中してもらうために設立されており、このようなdutyは少ないです。その反面、ラボの運営費も自分で賄わないといけませんので、金の切れ目が縁の切れ目で、グラントが無くなればすぐに研究所を追い出されるというシビアな世界です。
また、留学先で一つ大きな研究をして一発当ててみたいという人は、有名大学、有名研究所を選んだ方がいい仕事ができる確率が上がるかもしれません。名もない小さな大学や研究所がいい仕事ができないことはないと思うのですが、あくまで確率的な話です。
その理由としては、
1) 有名な研究施設は周囲のラボも研究のレベルが高く、そのようなラボとのコラボレーションができる可能性がある。そうすると自然と自分の研究のレベルも上がっていきます。また、高いレベルの研究をしている人たちと研究のディスカッションをするだけでも勉強になります。
2) 大きな研究施設にはcore facility(共用実験室)が充実しており、最新の実験設備があることが多い。
3) 周囲の研究環境が良いことが多いことです。日本では、試薬を注文してから実際に手に入るまで、早くて数日かかると思います。私がいた施設は、普段よく使う試薬を置いてあるセンターがあり、注文すると数時間後で手に入れることができました。また、上に書いているように、研究施設の周囲には試薬などの関連企業があり、例えばPCR用のプライマーは前日の夜までに注文すると、次の日の午前中にはラボに配達されます。またDNAシークエンス(1サンプル5ドル前後)も夕方に提出すれば、次の日の午前中にはネット経由で結果がみることができました。アイデアを出してから結果を見るまでの時間が短く、日本とは研究のスピード感が違いました。
大学、研究所のランキングについては近日中にまとめたいと思います。
ボスで選ぶ
ボスがどういう人か、という視点でラボを選ぶができます。
まず、ボスがアクティビティがあるかどうかということです。これは、アクティビティのあるラボの探し方についてはこちらを参考にして下さい。
次にボスの年齢についてです。
大御所の場合は、その年齢まで研究を続けてこられただけの土台があるだけに、周囲からの評価も高く、グラントも取りやすいためラボに安定感があります。ただし、健康問題などでラボが途中で閉鎖されるという話も時々聞きますので、その点だけ頭に入れておいたほうが良いかもしれません。
アメリカでは30代でラボを主宰するケースが日本よりも多く見られます。若いボスはグラント面でラボが不安定になります。グラントが切れてしまいそうになったら「このラボは潰れてしまうんではないだろうか、潰れたら次の職をどうしようか」と、ラボ内がソワソワして落ち着いて研究ができないということがあります。また、若いボスにありがちなのですが、若くしてボスになっただけあって、天才的なボスが時々いらっしゃいます。そのような人の場合は考え方がぶっ飛んでいることがあり、常人の話が通じないという人もいました。
ボスの人種についてです。ここでは人種がどうだから云々ということを言いたいわけではありません。全員が全員そうというわけではありませんが、やはり人種が違うと受けてきた教育が違うのでどうしても傾向がが出るのは間違いないですね。
アジア人、インド人のボスは真面目で、休みがなく土日も出勤してよく働かせるラボが多い傾向です。
アメリカ人のボスは、正にるつぼで、多様性に富んでいます。能力としても、「よくこんなのでボスになったな」という人もいれば、人格、知識ともに優れているような人もいました。
スペイン人、イタリア人のボスは約束の時間を守らない人が結構いました。
ラボのサイズや雰囲気で選ぶ
ラボのサイズや人数構成をあらかじめ調べておくことはとても有用です。ラボのホームページを見れば、何人構成のラボか分かります。
一般的には5人前後のラボが多いですが、中には30人近く、またはそれ以上の人を抱えるビッグラボもあります。
ラボに所属したときに主に誰から指導を受けるのか、ということを留学前に注意したほうがよいかもしれません。
通常はこのタイプのラボが最も多いと思います。メンバーが5人前後でボスが全員に直接指導するパターンで、とてもシンプルです。
数十人規模のいわゆるビッグラボと呼ばれるラボではこのようにピラミッドを形成していることがあります。
大ボスが中堅の人に指示を出しておいて、普段の仕事は中堅の人とコミュニケーションを取りながらプロジェクトをすすめる形式です。「憧れのボスの研究室に入ることができた」と思って留学しても大ボスが忙しくて、話すのが数ヶ月に1回というケースもあります。
これを混合したパターンもあります。
これは中ボスがラボを持って独立しているのですが、大ボスの傘下に入って共同して研究を進めているパターンです。この場合は主に中ボスと優先して連携することになります。
このようなミックス型のラボでも
このように大ボスの指導の下で研究をすすめるパターンもあります。
以上のように、ラボの構成によって誰からの指導を受けるかということが大きく変わってきますので、もし「特定の人の指導を受けたい、この人の下で働きたい」と思っている方は、あらかじめ確認しておいたほうがよいでしょう。
次に休みの有無についてです。休みの有無は留学のQOLを大きく左右しますので、しっかり休みを取れるところがいいですよね。
ラボによっては休み無しで昼も夜も馬車馬みたいに働かせるブラック研究室かもしれません(日本よりは明らかに頻度は少ないです)。また、大きいラボにありがちなのですが、システマチックになっており、歯車の一つになってしまうこともあります。そのような人数が多いラボは一人抜けても目立たないので、逆に休みやすかったりもします。小さいラボだとボスとのマンツーマンになるので休みを取りにくいかというと、必ずしもそうではないですね。
全てはボスのさじ加減なので入ってみないとわからない、というのが正直なところでしょうか。優しいボスは土日に実験していると「何で土日に実験しているんだ、休みなさい!」と言ってくれるラボもあるとか。。。
ただ、休みのとり方においてもどうしても人種差は出てしまいます。気にしているのは我々日本人だけなのかもしれませんね(笑)欧米人はどんな時であってもためらいなく休みを取るので、気にしているこっちが馬鹿らしくなってしまう時がありました。
また、もし可能であれば、ラボの雰囲気を留学前に探っておくことも重要でしょう。どの組織もそうでしょうが、人が多いと人間関係がややこしいなんてこともあります。留学する前に直接ボスやラボメンバーに聞くのは難しいかもしれませんが、面談や見学に行く機会があれば、ラボメンバーと話すことがあったり、聞くことができるかもしれません。また、実際に実験している雰囲気を見るとなんとなく雰囲気が分かるかもしれません。
私は、狙っていたラボの近くに偶然知り合いがいたので、その人経由でラボの雰囲気を聞いてもらったりしました。
待遇、サポート体制で選ぶ
ラボから給料をもらえるのか、もらえないかという点についてです。これは留学する方ご自身もそうですが、受け入れ先のボスにとっても大きな問題です。ボスが取ってくるグラントの半分以上は人件費で消えてしまいますので、ボスとしてもなるべく人件費は少なくしたいという考えが働きます。留学の受け入れが断られる理由のNo1がこの給料問題だと思います。
私の知っている研究室では、visitingとして無給で働いて留学している方がいらっしゃいます。これは特に医師に多いですが、「無給でもいいので勉強させて下さい」というパターンです。受け入れ先のボスにとっては、人件費を払わないですむためこれほどよい話はありませんので、このアプライは通りやすくなります。また、企業からの派遣や学振などの自前のグラントを取ってから留学される方もだいたい問題なく話が進むことが多いです。
何年ラボにいることができるのか?ビザを何年もらえるのか?将来的にアメリカでPIとして独立したい場合にはサポートしてくれるのか?もし今後グリーンカードを取りたい場合にはサポートしてくれるのか?ということについても、自分の将来のプランとのかね合いを考えながら、留学先のボスと前もって話し合っておいたほうがよいでしょう。
まとめ
研究留学先のラボを選ぶ時は
- 研究テーマ
- 場所(地理、気候、物価、治安)
- 施設
- ボス
- ラボのサイズや雰囲気
- 待遇、サポート体制
を考えて選ぶとよいでしょう。
この全てが希望通りになることはなく、どこかの部分で妥協をしないといけないかもしれません。これから研究留学されるみなさんにとって幸せなスイートスポットを見つけられることを願っております。
このブログでは留学に関するさまざまなの情報を発信しています。
コメント