クローニングをしている時に、
「あー、この制限酵素サイトがなければいいのになー」と思ったことはないでしょうか?
そんな時にKlenow Fragmentを使ったテクニックを覚えておけば役に立つことがあるかもしれません。
Klenow Fragmentとは
1970年にデンマークの生化学者ハンス・クレノウが発見した、DNAポリメラーゼIの断片の一部のタンパク質です。
DNAポリメラーゼIには
DNAポリメラーゼ活性、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性がありますが、
Klenow Fragmentでは5’→3’エキソヌクレアーゼ活性がなくなっています。
Klenow Fragmentを使ってできること
二本鎖DNAを平滑化処理してくれます。
5’に突出している末端は5’→3’方向にDNAを埋めてくれます(fill-in)。
逆に、3’突出末端はexonuclease活性によって削られます。
これによって
制限酵素サイトを潰したい
1塩基だけずらして、フレームシフトさせたい。
平滑末端のベクターにクローニング
平滑することで別の制限酵素サイトを作りたい
などのことができます。
また、DNAの放射線標識にも使われます。
今回やりたかったこと
あるベクターのAseIの制限酵素サイトが邪魔でしたので、Klenowを使って消してみました。

具体的な方法としては
- NotIとPacIを使ってダブルダイジェストして
- Klenowを使って平滑化して、
- ベクターを再環状化しました。
まず1のダブルダイジェストについてですが、

こんな感じで切断します。
制限酵素のDouble Digests(ダブルダイジェスト)について
2つの制限酵素を同時に切断することができますが、2つの制限酵素に最適のバッファーを選ばなければいけません。そんな時に便利なのが、
NEBのウェブサイトにあるNEB Cloner (Double Digest Finder)です。
NotIとPacIで調べてみたところ、

CutSmart Bufferなら100%の活性があるので、このバッファーを選びました。
NotIとPacIでダブルダイジェスト
ベクター | 1ug |
CutSmart Buffer | 1ul |
NotI-HF | 1ul |
PacI | 1ul |
Water | to 10ul |
Klenowで平滑化
次にKlenowで平滑化をします。
ダブルダイジェストした反応液からDNAを精製して下さい。
カラムでもフェノクロエタ沈でも何でもOKです。
注意点として、Klenowの反応に影響があるのでEDTAが入っていないDNA溶液にしてください。
NEBuffer 2 (10x) | 3 ul |
0.5mM dNTP | 1 ul |
DNA (だいたい2ugぐらい) | x ul |
Klenow Fragment (0.5U/ul) | 1 ul |
Water | (25 – x) ul |
Total | 30 ul |

5’に突出している末端は5’→3’方向にDNAを埋め、3’突出末端はexonuclease活性によって削られるので
こんな感じになるはずです。
プラスミドの再環状化
平滑化したプラスミドをリン酸化して、ライゲーションで再環状化します。
DNA 溶液 | 8 ul |
10x T4 ligation buffer (ATP含) | 1 ul |
T4 ligase | 0.5 ul |
T4 PNK kinase | 0.5 ul |
total | 10 ul |
反応液のうち1-2ulを使って形質転換すれば、目的のプラスミドが得られます。
このサイトでは他にも色々な実験プロトコールや試薬の作り方についてまとめています。

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