【原理と方法】タンパク質やプラスミドDNAからエンドトキシンを除去する【Triton X-114を用いた格安の方法】

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実験プロトコル

この記事ではエンドトキシンの基本と、タンパク質やプラスミドDNAからエンドトキシンを除去する機序と方法について解説しています。

除去方法については、Triton X-114という界面活性剤を用いた経済的な方法も紹介しています。

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エンドトキシン(LPS)とは

エンドトキシンとはグラム陰性桿菌の細胞壁の外膜を作っている構成成分の一つです。

脂質と多糖からなる糖脂質で、LPS (Lipopolysaccharide)とも呼ばれています。

エンドトキシンは下図のような構造をとっています。

O抗原は大腸菌の株によって異なっています。腸管出血性大腸菌O-157は有名ですね。

リピドAの部分が、内毒素とも言われておりエンドトキシンの活性本体です。

通常は外膜内に埋まり込んでいますが、細菌が死んだり細胞壁が壊れると、このリピドAが外に漏れ出ることになります。

エンドトキシンが混入するとどうなるか?

エンドトキシンの混入(コンタミネーション)によるプラス面の作用は、基本的にはありません。

(ワクチンのアジュバントとして使われる場合がありますが。)

エンドトキシンはToll Like Receptor 4(TLR4)と呼ばれるセンサー(レセプター)で検知されます。

ほとんどの細胞(特に免疫系の細胞)はこの受容体を持っており、TLR4の下流シグナルが活性化すると炎症性サイトカインやインターフェロンが産生されます。

細胞にトランスフェクションする時にDNAにエンドトキシンが混入していれば、トランスフェクションの効率が下がったり、細胞の生存率が下がってしまいます。

動物に対してタンパク質やDNAを投与することがありますが、エンドトキシンの混入があれば免疫細胞を強力に刺激することになります。

エンドトキシンの量が多い場合は、エンドトキシンショックとなり、動物が死んでしまうこともあります。

検査の場面でもエンドトキシン混入は重大な問題となります。

結核検査の一つであるクォンティフェロン採血管にエンドトキシン混入で大問題になったことがあります

とにかく何をするにしても、エンドトキシンはないに越したことはないです。

エンドトキシンの除去方法と機序

工業製品の場合は乾熱処理、酸アルカリ処理などで不活化することができますが、この方法はDNAやタンパク質の場合には使うことができません。

実験に用いるDNAやタンパク質の場合には、カラムによる除去か、Triton X-114による除去が一般的です。

カラムによる除去

カラムによるエンドトキシンの除去は簡単です。

エンドトキシンが混入しているDNAやタンパク質を直接カラムに通して、エンドトキシンをカラムに吸着させます。

DNA用エンドトキシン除去カラムは多数ありますが、例えばこのようなものがあります。

Norgen社 エンドトキシン除去キット | スピンカラムタイプのエンドトキシン除去キット | コスモ・バイオ株式会社
Norgen社 エンドトキシン除去キット | エンドトキシンは、リポ多糖とも呼ばれ、E.coliをはじめとするグラム陰性菌の細胞膜構成成分です。エンドトキシンはプラスミド精製中の可溶化ステップにおいて放出され、エンドトキシン感受性細胞株へのトランスフェクション効率を著しく低下させます。…

タンパク質用のエンドトキシン除去カラムもいろいろありますが、例えばこんなものです。

お探しのページが見つかりませんでした | 研究用試薬・抗体・機器・受託サービス フナコシ株式会社
お探しのページが見つかりませんでした

エンドトキシンを除去する機序はカラムによって様々です。

エンドトキシンのリン酸基やKOD(2-keto-3-deoxyoctonic acid, 上図のオレンジの部分)は負電荷を帯びています。

また、リピドAの部分は疎水性ですので、これらの化学的な性質を利用して吸着させているものもあります。

また臨床の場面では、エンドトキシンを血液から直接浄化することがあります。

この場合は、エンドトキシンと親和性の高い物質(例えば抗生物質であるポリミキシンBなど)を織り込んである担体を使うこともあります。

TritonX-114による除去方法

カラムはお金がかかるので、Triton X-114を用いた格安のエンドトキシン除去方法を紹介します。

現法はこちらです。

これは一般的なQIAGEN(キアゲン)のミニプレップキットのプロトコールです。

  1. Pellet 1–5 ml bacterial overnight culture by centrifugation at >8000 rpm (6800 x g) for 3 min at room temperature (15–25°C).
  2. Resuspend pelleted bacterial cells in 250 μl Buffer P1 and transfer to a microcentrifuge tube.
  3. Add 250 μl Buffer P2 and mix thoroughly by inverting the tube 4–6 times until the solution becomes clear. Do not allow the lysis reaction to proceed for
    more than 5 min. If using LyseBlue reagent, the solution will turn blue.
  4. Add 350 μl Buffer N3 and mix immediately and thoroughly by inverting the tube 4–6 times. If using LyseBlue reagent, the solution will turn colorless.

Qiagenのホームページ(https://www.qiagen.com/jp/products/discovery-and-translational-research/dna-rna-purification/dna-purification/plasmid-dna/qiaprep-spin-miniprep-kit/)より引用

通常プロトコールではこの後にスピンカラムに移します。

キットによってバッファーの名前は違いますが、ここまではどのキットでも一緒だと思います。

エンドトキシンを除去するために、スピンカラムに移す前に以下の工程を追加します。

  1. DNA溶液を冷却して、0.1倍容量(1mlなら100ul)の10% Triton X-114を加える(最終濃度が1% Triton X-114)。
  2. 氷上でインキュベートし、時々チューブを逆さにして混ぜる。
  3. 37℃で20-30分または相が分離するまでインキュベートする。
  4. 室温で3000xg, 5分間スピンする。
  5. 2相に分離した上の層にエンドトキシンが除去されたプラスミドがありますので、この層をとってスピンカラムに移します。

あとは通常のプロトコール通りにカラムに通して、Wash(洗浄)、Elute(溶出)を行います。

私は正確に測ったことはありませんが、だいたい10-20%ぐらいロスすると言われています。

タンパク質のエンドトキシン除去もTriton X-114を加えて水相を取るという仕組みは同じです。

Triton X-114によるエンドトキシン除去の機序

Triton X-114でエンドトキシンが除去される機序は、

エンドトキシン(リピドA)は疎水性ですので、界面活性剤であるTriton X-114がミセルを形成して、遠心によって沈殿するという原理です。

Removing endotoxin from plasmid samples by Triton X-114 isothermal extraction

に写真付きで解説してあります。

また、水相にエンドトキシンが混入していることを心配される方がいるかもしれません。

これについては、詳細に条件検討されている日本語の学位論文を見つけましたのでこちらを参考にして下さい。

二相分離法を応用したLipopolysaccharideの精製と分類に関する研究
二相分離法を応用したLipopolysaccharideの精製と分類に関する研究 菊池, 晴子 九州大学 2011-05-31

まとめ

エンドトキシンの基本と除去方法についてまとめました。

カラムを用いると費用がかかりますが、

Triton X-114を用いると、かなり安価でエンドトキシン除去をすることができます。

大腸菌実験プロトコールのまとめ

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