HE染色のプロトコール、染色機序、パラフィンと凍結切片の比較について

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実験プロトコル

ヘマトキシリン(Hematoxylin) & エオジン(Eosin)染色、HE染色は組織検査の基本です。

この記事ではHE染色のプロトコールや染色機序、パラフィン包埋切片と凍結切片でのHE染色染色の比較、HE染色の染め直し方などについてまとめています。

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HE染色とは

細胞や組織などは本来無色ですが、色素で染めることによって、人の目で評価することができるようになります。

HE染色は簡便であり、細胞や組織の構成要素を再現性よく表現できるため、形態病理学の基本となっており、組織染色の王様といってもいいと思います。

HE染色の歴史は19世紀中盤ごろから始まります。

歴史について興味がある方のために、論文のリンクもつけておきます。

A brief historical note on staining by hematoxylin and eosin

A brief historical note on staining by hematoxylin and eosin - PubMed
A brief historical note on staining by hematoxylin and eosin

The long history of hematoxylin

The long history of hematoxylin - PubMed
Hematoxylin is a naturally occurring chemical used as the basis of a dye in laboratories throughout the world to stain nuclei in microscope slide preparations. ...

HE染色の機序

まずHE染色で何を染めているのか、という疑問が出てくると思います。

おおざっぱに言うと、細胞の電荷によって核(負に帯電している)と細胞質(正に帯電している)をヘマトキシリン(正に帯電)とエオジン(負に帯電)で染め分けているということになりますが、その詳しいメカニズムを説明します。

ヘマトキシリン

まずヘマトキシリンについて解説します。

ヘマトキシリン(Hematoxylin)はアカミノキ(Haematoxylum campechianum)という植物から抽出された物質です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘマトキシリン

ヘマトキシリンそれ自体は無色ですが、酸化させるとヘマチンになります。ヘマチンはアルミニウム (Al+3), 鉄 (Fe+3) クロミウム (Cr+3)などと結合させることによって、強い青色になります。アルミニウムと錯体を作った場合には青白色、鉄の場合には青黒色となります。

ちなみに、マイヤーヘマトキシリンにはカリウムミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム, KAl(SO₄)₂·12H₂O)が多量に含まれており、アルミニウムがこの錯体を作っています。

この金属錯体は正に帯電するので、核酸のリン酸基と結合して、主に核を青色に染めることになります。

その他にも、好塩基性組織(骨組織、軟骨組織の一部、漿液成分)などが染まります。

エオジン

エオジンは赤い蛍光色素誘導体で、Fluoresceinを臭素化して作られます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/エオシン

ちなみに名前の由来は、発明者のHeinrich Caro友人、Anna Petersのあだ名(Eos)から来ているそうです。

エオジンは負に帯電しているので、主に細胞質を赤色に染めます。

好酸性組織(軟部組織の結合組織、赤血球、膠原線維、筋繊維、分泌顆粒など)が染まります。

パラフィン包埋切片と凍結切片の比較

組織の保存方法として、パラフィン包埋と凍結保存がありますが、それぞれの特徴をまとめました。

パラフィン包埋切片凍結切片
固定法包埋の前に行う薄切後に行う
切片の作成法マイクロトームクライオスタット
保存方法室温で長期保存可能-80℃で数年間
利点組織の形態が保たれているタンパク質の酵素活性や抗原が保たれている。
欠点過固定によって、抗原性が低下する氷の結晶によって組織の形態が悪くなる

HE染色はパラフィン包埋切片と凍結切片のどちらでも染色することができます。

HE染色では組織の形態を見ることを目的とすることが多いので、どちらかというとパラフィン包埋切片の方がHE染色に望ましいと思います。

免疫染色は、より抗原が保たれている凍結切片に軍配が上がります。

凍結切片ではよく反応する抗体が、パラフィン包埋切片では全く使えないということがしばしばあります。

実験の目的や見たいものに合わせて、使い分けた方がいいでしょう。

HE染色のプロトコール

施設や研究室によって派生したものがあると思いますが、代表的なプロトコールを書いています。

凍結切片のHE染色プロトコール

乾燥だけで、固定をしない方法もあるようですが、基本的には固定をしっかりした方がHEの染まりが良くなりますので、凍結切片は固定のプロセスが必要になります。

  • 固定(PFAやエタノールなど)
  • ヘマトキシリン 5〜10分
  • (分別、色出し)
  • エオジン 3〜5分
  • 水洗 10分

70%エタノール槽から徐々に100%エタノールの槽へ移すことによって、組織中の水分をエタノールと置き換える。

  • 70%エタノール 1秒(3回ぐらい上下に振る)
  • 95%エタノール 1秒(3回ぐらい上下に振る)
  • 100%エタノールI 1秒(3回ぐらい上下に振る)
  • 100%エタノールII 1秒(3回ぐらい上下に振る)
  • 100%エタノールIII 1秒(3回ぐらい上下に振る)

エタノールをキシレンに置き換える(透徹)

  • キシレンI 5分
  • キシレンII 5分
  • キシレンIII 5分

カバーグラスをつける(封入)

固定用のPFAの作り方は下記のリンクに書いてあります。

注意点

上記のプロトコールで「分別」「色出し」という操作を行うことがありますが、簡易法では省略することが可能です。

分別

この時点では、細胞全体にヘマトキシリンが染まっているので、HCl溶液で細胞質に結合しているヘマトキシリンをH+イオンで置換することで、細胞質のヘマトキシリンを落とします。この分別操作を長く行うと、核のヘマトキシリンも落ちてしまうので、通常は1〜2秒程度でOKです。

色出し

分別後は酸性になっているので、水洗や中和することでpHを上げないといけません。水道水で洗浄することもありますが、残留塩素濃度が高くてpHが低くなっていたりすると、ヘマトキシリンの本来の色の青色にならずに、赤紫色になってしまうことがありますので注意して下さい。1%炭酸リチウム飽和液(pH8〜9)やアンモニウムアルコール(ph9〜10)、Scott’s Waterなどで色出しするプロトコールもあります。

試薬の劣化(染色性の低下)について

ヘマトキシリンは自然酸化したり、水の持ち込みで薄まることなどによって染色性が低下するので、複数回使用した後は新調した方がいいです。

エオジンは古くなっても染色性はほとんど低下しないと言う人もいますが、炭酸ガスを吸って変質が起こりますので、厳密にクオリティーコントロールするためには定期的な交換が必要です。

パラフィン包埋切片のHE染色プロトコール

パラフィン包埋切片の場合は固定は包埋前に行っているので必要ないですが、組織を包埋しているパラフィンを有機溶媒で溶かす、脱パラフィン(Deparaffinize)の処理が必要になります。その後、有機溶媒を水に置き換えて再水和(Rehydrate)を行います。

  1. キシレンIに10分間漬ける。
  2. キシレンIIに10分間漬ける。
  3. 100%エタノールIに5分間漬ける。
  4. 100%エタノールIIに5分間漬ける。
  5. 100%エタノールIIIに5分間漬ける。
  6. 95%エタノールIに5分間漬ける。
  7. 70%エタノールIに5分間漬ける。
  8. 流水(水道水でOK)で5分間洗浄してエタノールを除去する。

この後は、上記の凍結切片のプロトコールと同じです。

パラフィン包埋切片の場合は固定済みなので、ヘマトキシリンからスタートします。

HE染色を染め直す方法

一発で染められれば、それに越したことはないですが、顕微鏡で見た後に、HE染色をもう一度やり直したいと思う時があるかと思います。

その時は次のような処置でリカバリーすることができます。

  1. キシレンに長く漬けて、カバーグラスをはずす。
  2. 上記の脱パラフィンの過程の処理を行う(100%エタノールから流水まで)。
  3. PAS染色で使用するヨウ素液に漬ける(酸化により脱色されるので、ヘマトキシリンが染まりやすくなる)。
  4. 通常のHE染色をやり直す。

カバーグラスを外したりして組織にダメージを与えることがあるので、慎重に操作を行いましょう。

HE染色に必要なもの

HE染色には多数のバスケットが必要ですので、下記のようなステーション(染色液槽セット)があると便利です。

https://epredia.com/pdf/jp/staining/

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